小説

血桜

匿名

2…9年…月26日

これを見ている君へ。

まずは自己紹介だね。

僕はワトソン。名前からは想像できないと思うけれども、人型の足りないずんだもんだ。察しの通り、四肢が欠損している。

でも大丈夫。普通のずんだもんと比較して飛行能力・再生力・繁殖力が高くない代わりに、超能力が備わっているからね。このメモも超能力で浮かせたペンで書いてるんだよ。

…語尾に『のだ』が無いのが気になるかな?しばらく前に自然と口から出なくなったんだ。何故だろうか。

きっとこれからここに書く内容が、原因だろうね。

さて、本題に移るよ。

今から書く内容は妖精ずんだもん達が『渓谷(警告)』と呼び、恐れてきた存在についての事。

何故ニュースになるほどの大量虐殺をしたのか、その一部始終をここに書き記すよ。

―人物―

さくらもん…僕の上司にして株式会社カカシの設立者。『さくらもんさん』『さくさん』等の愛称で呼ばれている。本名は僕ですら知らない。年齢は20歳…くらいだと聞いている。

ワトソン…僕。さくらもんさんの秘書。ある日さくらもんさんに拾われて、色々あって秘書になった。

あんこもん…たまに事務所に来る女性の人型。65~70歳くらいの見てくれだけれど、実年齢は29歳。

その他の妖精、人型…この会社の従業員。名前がない者も大勢いる。

僕は、かつて足りない妖精ずんだもんだった。親に捨てられ、そのまま路地裏で餓死寸前まで追いやられていた。

…これから起こることを考えれば、路地裏でゆったり死んでいた方がまだ良かったのかもしれない。

でも、残念ながら僕は生き延びてしまった。

裏路地で息絶える寸前のところで、命拾いしたのだ。

『やぁ、こんばんは。突然質問をして申し訳無いのだが、君は死にかけているのかな?』

冷え込んだ夜の裏路地、全てを諦めて目を閉じかけたその時、突如として聞こえてきた第一声。

『…』

『そりゃ返事もできないかぁ…いつもの高音生意気キュートボイスが無いと、こうも寂しいとはねぇ。』

懐中電灯片手に近づいてきた誰かは、僕をつまみ上げてケースに入れた。ケースの中には柔らかいクッションが入っていた。僕はそのままクッションに身を委ねて眠りに落ちた。

『死に目に合った足りない個体…やっと見つけた。コイツを育成しよう…!私の仮説が正しければ…』

―――――――――

『…ん』

目が覚め、状況を確認する。
クッションの上で横たわる僕の体には数本の管が通されていた。

「栄養」

「再生補助」

「点滴量自動調節」

「ずんだ餡」

確かその様に書かれていたはず。

『おはよう、無事生き延びたようだネ。』

不自由な体を動かし何とか横を見る。
特徴的な桜色の髪の毛に白衣、そして2つの桜色の枝豆袋が頭部から生えていた。

『ここは…どこなのだ…』
『ここが何処なのかより、私が誰なのかを、そして現在の状況を聞きたまえよ。そっちの方が利口だ。』

苦笑いを浮かべる人型ずんだもんの色違い。色以外は完全に人型ずんだもんなのだが…決定的に違うところが1つ。

目付きだ。

親妖精や人間が僕をいじめるときに見せた目も、冷たく、雲って見えていたが、この目はその程度のレベルではない。

『まずは自己紹介だね。』

手に持っていた器具をテーブルに置く。

『私の名前は…さくらもんとでも呼びたまえ。とある会社の社長さ。ここはその会社の事務所の地下施設。
知っての通り君はさっきまで死にかけていたが、私がそれを拾って助けた…という流れさ。』

何故か嬉々として現状を話す。

『のだ…いて…』

『あぁ、動いちゃダメだよ。傷口が一度でも開こうものなら、死ぬよほんとに。言い方悪いけど、今の君はボロ雑巾が綺麗に見えるレベルでズタズタだよ。

それにしても凄いなぁ、この再生補助薬。禁忌に触れてる気がしてゾクゾクしてきた…!』

桜色の髪の毛を左右に揺らしながらケタケタ笑い始めた。死んだ目付きも相まって、不気味が極まっている。

『…おっと、大事なことを言い忘れていたね。体が治ったら君にはやってもらうことがある。』

やってもらうこと…彼は間違いなくそう言った。四肢の無い僕に何ができるというのだろうか。
考えてもみればそもそも何故、僕を助けたのだろうか。

そんな僕の思考を遮るように、まるで僕のこれからの成長を願うように、どこからともなくワインを取り出してグラスに注いだ。

乾杯の仕草をした後、彼は僕に信じられないことを言った。

『君には私の…秘書になってもらおうと思うんだ』

『さぁ、ワトソン君。病み上り早々で申し訳無いのだが、君には研修を受けてもらうよ。今日は私の仕事を見学してもらう!』

「けんがく?」

『見て学び、大きくなるという意味さ!』

「おおきくなるのだ!わかったのだ!」

『おお、ずいぶん元気だねぇ。すっかり回復してて何よりだ。よし、いくよ!』

車に荷物を積み込みながら、ケースに入った僕に話しかける。

『…おっ電話だ。…はい、株式会社カカシのさくらです。…はい…はい……捕獲から完全駆除に切り替え?…いえ、急なプラン変更に対応するための準備自体はいつもしてあるので大丈夫なのですが、何か問題が生じましたか?』

次の瞬間、空気が変わる。

『……人身事故?…死者アリ…たかだか一軒に住み着く規模で警察沙汰の人身事故など起こせるはずは…急激な大繁殖…警察が狩友会に出動要請ですか…』
車のエンジンがかかり、発進する。

『ワトソン君、覚悟したまえ。最初から私の仕事の闇を見せることになりそうだ。』

「どういうことなのだ?」

『君にとっては非常に辛い景色を見せることになる。でもそれが私の仕事だ。逃げるわけにはいかないのだよ。
…私の仕事は主に、全国各地の妖精ずんだもんを以来に応じて捕獲・駆除する仕事なんだ。駆除っていうのは、殺すって意味さ。』

「ぼくのなかまをころすのだ…!?」

『そう。でも今日は捕獲して逃がす方…本来は穏便解決プランだったんだ。だから秘書見習いの君にも見せておくべきだと思ったのさ。』

直後、先程まで比較的普通だった雰囲気が覚悟と狂気に染まる。

車はスピードを上げ、慌ただしく窓の外の景色を置き去りにしていった。

――――――――

《のだのだ!》《のだぁ!》《くちょにんげんがいるのだ!》《おいちいのだ!》《のだのだ!》《のだぁのだ!》

数年前の光景のはずなのに、あの光景は何故か今だに覚えている。

車が目的地の小さな町に入る前に、既に僕と同じ妖精ずんだもんが多く見られた。カゲロウの大量発生程ではないが、この時点で既に相当な数の妖精が宙を舞っていた。

『…不味い、町の外にも既に群れが…しょうがない。やるしかないな。』

突如、社長は車の速度を落しながら何かのノズルを片手に窓を開けた。

『皆殺しだ。すまないね。』

シュバババババ

ノズルから霧状の液体が射出される。

《うぎゃ!》《なんだこれ、からだがおもくてとびづらいのだ!》

そんな声がうるさいくらいに車内にまで聞こえてきた。

そして車はUターンし、高度を落した妖精の群れに突っ込んでいく。

《《《うわああああああああああああああブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブおかぁちゃチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチフおとうちゃ゙チブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブおちびちゃチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチたすけブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチやめてこないでぇぇ!ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチフとまっちぇええええ゙チブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ
――――――――――――――

3時間ほど町の外の色々な道で『Uターン』をし続けた。真っ白だったはずのハイエースは、見事にドス黒い緑一色に染まった。それが終わる頃には、もう窓の外に妖精の気配は1匹たりとも無かった。

『ワトソン君。これが私の仕事だよ。ごめんよ、辛いものを見せてしまって。』

「…」

もう絶句するしかなかった。

同じ妖精達に迫害を受けた過去があるとはいえ、こんな虐殺を望んだことはな「ハタシテホントウニソウダロウカ?」
「ナイシンマンゾクシテイルノデハナイカ?」

口から思わず出そうになる、しかし確実に芽生えたドス黒い満足感。僕はそれを抑えることに執心した。

車でずんだもんの群れを惨殺した数分後、緑一色になった車は町の中心部に到着する。

《ヘコヘコ!気持ちいいのだ!》
《くちょにんげん!ざまぁみろなのだ!》

その光景に、社長はため息をついた。

『中心部ですらこれか…現場にはさらに大量に居るんだろうな…

それにしても生意気な個体が多いな。

猟友会や警察は既に到着しているはず…ということは駆除作業が始まっているはずだ。にもかかわらず、現場から遠くに逃げずにヘコヘコしたり、挙げ句に悪態をつく余裕っぷり。…間違いない。』

直後、狂気に染まった笑みを浮かべた。

―どこかに司令塔(見せしめ)がいる―

緑一色のハイエースが急発進する。
それと同時に開けた窓からノズルを出して、再び先程の霧を噴射する。

現場に到着するまでの道のりをも、容赦なく緑一色に染め上げるつもりだ。

妖精を車で潰す度に車はガタガタと揺れ、悲鳴は車内にまでこだまする。

数時間にも思える惨滅劇の後、現場に到着した。

《のだのだ!》《おぎゃーおぎゃー!》《ヘコヘコ気持ちいいのだ!》《はぁはぁ》《いぎゃぁぁぁぁ!》

右を見ても左を見ても、妖精、妖精、妖精…

と、現場の一軒家を見ると既に猟友会の人々が、湧いてくる妖精相手に格闘していた。

『くそ!コイツらどんだけ繁殖しやがるんだ!駆除しても駆除しても湧いてきやがる!』

『…仮に放置でもしたら、空を覆い尽くす勢いですね…そこっ!隙アリ!』

ブチッ

《ギャアア!!》《くちょにんげん!なにするのだ!》

一匹、また一匹と、駆除されていくずんだもん。潰された死体の中には僕と同じ足りない個体もいて、胸が痛くなった。

と、社長が鞄片手に車から飛び出ていく。

猟友会の人々がそれに気がつく。

『おお!カカシのさくらさんが来たぞ!』『やったぞ!百人力が到着した!』『…営業車のハイエース、確か白色でしたよね。…既に何匹も車で潰してきたようですね…。』

社長は黙ったまま、鞄からケースを取り出して猟友会の人々に渡していく。

『…さて皆さん、このままではラチがあきません。私に考えがあります。従って頂けますね?
ふむ、警察は別な現場に向かったようですね。幸いです。』

社長は間違いなくそう言った。警察が居ると不味いことでもあるのだろうか?

『…コレに子ずんのみを捕獲して入れていってください。飛び回る親ずんを捕獲するのが難しくても、子ずんに狙いを絞れば捕獲は簡単なはずです。

信じられないと思いますが…これが切り札になります。』

『え!?これが?』
『まぁ…あんたが言うなら…』

一同に戸惑いの声が広がる。

それもそのはず、渡されたのは武器でも駆除スプレーでもなく、ただのアルミ製の網ケース。

戸惑い収まらぬまま、猟友会総員をもって子ずんの捕獲作戦が決行された。

《おぎゃー!おぎゃー!》《ぱぱずん!ままずん!たちゅけちゃ!》

《おちびちゃんをはなせ!》《おちびちゃん!》

『本当にこれで何とかなるのか…?』
『あの人を信じようぜ…ずんだもん以外も狩猟する俺らと違って、さくらさんはずんだもん専門。知識がある。』

みるみるうちに子ずんがケースに捕獲されていく。

《《《はなちて!たちゅけて!!》》》

10分後には、ケース一杯に子ずんが捕獲された。その間も親ずん達はヘコヘコを続けていたようで、妖精の総数は先程より増えている気がする。

―この直後、僕は思い知ることになる。この人の恐ろしさを―

『…よし。これで良い。』

直後、社長が猟友会総員から計10個のケースを回収し…

【【こっちを見ろ!ずんだもん共!!】】

《くちょにんげん!おちびちゃんになにをするのだ!》《ちねぇ!!》《はなちて!おちびちゃんをたすけて!》

気がついた親ずん達が社長とケース目掛けて飛んでくる。

《おぎゃー!おぎゃー!》《おぎゃーおメシメシメシ《いたい!》《たちゅけて!ままずメシメシメシバキボキボキ《おぎゃー!》メシメシメシ《ぱぱずん!しにたくないよぉ!いグシュ!

親ずんを手で払いのけながら、社長がケースの上に片足を乗せていた。

―ケースは、あえて変形しやすく作られていた―

社長が体重を少しかけたことでケースが変形し、中の子ずんが数匹圧死した。

《あっ…おちびちゃ…》

先程まで五月蝿かった親ずん達が急に静かになる。

『あぁ、可愛い…もっと…もっと…フフフフフ』

社長が今までにないほど醜悪な笑顔を浮かべる。

『さくらさん…?どうされま『ああああああああはああああああはああああッ!!素晴らしいッ!その絶望に染まった顔!素晴らしい🍷ギチギチにケースに入れられた子ずんも可愛すぎて我慢できません!もういいですよね!!我慢しなくて良いですよね!!好き放題増えまくって好き放題したんですから!おまけに人身事故まで起こしてしまって!いけない子たちです!お仕置きして差し上げましょうか!』

社長がさらにケースに体重をかける。

ギリギリギリ

《おぎゃー!》《ああああああ!!》

プチプチプチ

《やめてぇぇぇ!ああああああ!!おちびちゃぁああ!!》

数十匹もの親ずん達が、ケースから社長を引き剥がそうと必死に押す。しかし体格差がありすぎて、数十匹ではびくともしない。

それだけではなかった。

社長は、残忍で、狡猾で、慈悲深かった。

『そう来ると思ってねぇ!さっき服に強力粘着シートを貼っておいたんだぁ!ここなら特等席で子ずんの死を楽しめると思ってね!!

死の間際に立ち会えるようにするための粋な計らいさ!ありがたく思いなさいな!

その代わり…君たち数十匹分の体重も、私の体重と共にケースの中の子ずんに加重されるけどねぇ!

愚かで可愛いね、本当に…🍷

あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!』

《そんな…おちびちゃん…はなせ!あくま!なんてひどいことをするのだ!》

親ずんが必死にもがくが、引っ付いた四肢はびくともしない。

『…う…オエッ』

猟友会の一人が嘔吐する。先程まで駆除作業に当たっていたはずの人間でも、この光景には耐え難いものがあったようだ。

その光景のすぐ後、

社長は、ケースに両足を乗せた。

グヂャッ

静寂。

ぐにゃりと潰れたケースが、子ずんの死を際立たせる。

子ずん入ったケースが1つ、完全に潰れて約2、3秒。

《ああああぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあ!!》
《おぢびぢぁぁぁぁあ!!》

社長の服に引っ付いた親ずん達数十匹の絶叫。

その思いもむなしく社長の下には、翡翠色の凪湖ができていた。

『楽しんでいただけたようですね…特等席での観戦。

…さて、名残惜しいですがそろそろ次の仕事をしましょうか。

まだ司令塔…もとい見せしめが捕まってませんから。』

惨劇を前に、押し黙る猟友会をよそに社長は何ともなさそうに一人で考察を披露する。

『短期間かつ急激な大繁殖に加えて、すかさず人身事故…司令塔がナワバリの拡大を画策して起こした事件だろうね…。

もはや、司令塔役の存在は確定だ。

…フフフ、ならばあぶり出してあげよう…!』

不気味な笑みと共に社長が緑色の血の池から足を退かす。
子ずん「だったもの」がネチャリと音を立てて、社長の靴と糸を引きながら離れる。

すかさず社長は2つ目のケースに足をかけた。

《もうやめてぇ!》《ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい》《アああぁぁぁあぁぁぁあア!》

《いまひきはがすのだ!》《くちょにんげん!なかまはかえしてもらうのだ!》

引っ付いた親ずん達が慈悲を求めて、或いは発狂して叫ぶ。
それと同時に仲間の妖精が、引っ付いた親ずん達を引き剥がそうとする。

『…そろそろこの粘着シートの本領発揮といこうではないか🍷』

突然、社長は引っ付いた親ずんを両手で1匹ずつ掴んだ。

《!?》《うごご…!はなすのだ!いったいなにをするきなのだ!》

2匹が抵抗するも、当然動けない。

社長はそのまま、親ずんの仲間の妖精達の「望み通り」2匹を剥がそうとした。

しかし、四肢は粘着シートから中々剥がれない。

遂には、親ずん2匹の四肢は引っ付いたまま伸びきってしまった。

それでも社長は、引き剥がす方向にゆっくり力を込める。

ブチブチブチブチブチ
ポキッ

《いぎゃあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあ!》

案の定、皮膚が粘着シートに引っ付いて破れながら、四肢のあちこちが脱臼し始める。

社長はその様子を満足げに眺めながら、恐ろしくゆっくりと、2匹を引き剥がしていく。

ブ…チ…ブチ…ブチ…ブ…チ…ブチ…
メリ…メリッ…メ…リ…

《おぁああぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあ!!いぎゃあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあ!ゆるじで!だずげで!いぎごごご》

妖精とは思えない、大音量の悲鳴。

社長の狙いはこれだったのだ。

どこかにいるであろう司令塔を、仲間の悲鳴を使って精神的に追い詰める。

何て残忍で狡猾なのだろうか。

親ずんの四肢は伸びきって、伸びきって、根元が破断しはじめた。

プ…チ…プチ…プ…チ…プチ

《うぎゃぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあブツッ…

ドシャアアアアア!!!!!

四肢は粘着シートの上に置き去りになり、親ずんの躰からは緑色の噴水が勢いよく吹き出た。

更に社長は、両手に持った2匹の「足りない」個体を、潰れた1つ目のケースと同じところめがけて投げ捨てた。

『…あ…』
車のフロントガラス越しに広がる光景に対して、僕の口から絞り出せた精一杯のひと言だった。

今までも、そしてこれからも、四肢を使うことで得られるはずだった様々な経験、刺激。

粘着シートは、それらを一瞬でむしり取ってしまった。

《お…おまえたち…!》《ねばねばさんがつよすぎるのだ…!》《これじゃあたすけてもどのみち…ちんじゃうのだ…》《どうするのだ!》

そのとき、妖精の1匹が口を滑らせた。

《オカシラがここにいてくれたらいいのに…》

瞬間。

ガシィッ!

社長はその妖精を、右手で素早く鷲掴みにする。

『…オカシラ…?ソイツは何処にいるのです?言わなきゃ残りのケースと君の体を、このまま潰しますよ🍷』

《む…むご…し…知らなグジャァッ!

鷲掴みにされた妖精が最後まで言い終わる前に、2つ目の「ケース」を一気に踏み潰した。

2つ目の血溜りが社長の足元にできあがる。

プチプチッ!

《おぎゃー!》《ヘブッ!》

ブツッ、ブツッ。

《ふぎゃーーー!》

続けて3つ目のケースも半分ほど潰す。
更に鷲掴みにした妖精の足を2本もぎ取った。

『ふーん。
もう一度聞くけどオカシラは何処?』

《やめろあくま!》《オカシラのばしょをいったら、ぼくたちこのあくまにみなごろしにされるかもしれないのだ!いっちゃだめなのだ!》

ふと気がつくと、現場で繁殖していた個体は全て、社長の周囲10m以内に集約していた。これだけのことをすれば当然そうなるだろう。

しかし、今なら分かる。この事態すら社長は計算していたということを。

社長は、この町にいる妖精達を文字通り「全滅」させる気だったのだということを。

―社長は笑った―

『みぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーつーーーーーーけーーーーーーーーーーーーたぁーーーーーー…!

あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!』

右手に持っていた妖精を、ある1匹の妖精に狙いを定めて投げ飛ばす。

その妖精は、一瞬逃げようとして体をそらしたように見えたが、間に合わなかったようだ。

見事クリーンヒットして撃墜される。

その妖精は、片耳がなかった。

『さくらさん、まさかコイツが…?』

『…間違いない…オカシラです。…ん、体が極端に綺麗だ…体を清める習慣がある…ということは、天才個体ですねぇ。

そんなことだろうと思いましたよ。

これだけ新しい個体が大発生する状況…会社で例えるなら新人が数日おきに何千人も入ってくる状況…教育を素早く終わらせ、チームワークを発揮して人身事故を引き起こしてナワバリ拡大など…本来は不可能。

人間に置き換えても不可能に近い芸当でしょう。』

気絶したオカシラを左手でつまみ上げ、プラケースに入れて蓋をロックする。

『しかし、生まれてきた新入りに「片耳の大人妖精が1匹だけいて、それが僕たちのオカシラだから言うことを聞こうね!」…と教育するならどうでしょうか?簡単かつ素早く教育を終わらせられると思いませんか?』

社長は、ずんだもんを、僕達を、徹底的に知り尽くしていた。

『しかし残念。姿を見せてしまいましたね。

仲間がこれだけ悲鳴をあげれば、必ず様子を見にくる。リーダーとして当然の行動ですな。

そして…恐らくオカシラはこの1匹以外にもいるでしょう。

このオカシラは複数いるうちの1匹。幹部…といったところでしょうね。ですがこの幹部1匹を捕獲したことで、この辺りの地域の統制は大きく崩れます。恐らく私なしでも駆除は進むでしょう。

…はいこれ、アルミ網ケースの残りと、飛行鈍化スプレーです。スプレーの料金は既に頂いてますからご自由にお使いくださいな。アルミ網ケースはサービスです。使い方は…説明しなくて良いですね?』

ニタァ

『…網ケースの使用は検討しておきます。…我々に、そこまでする趣味はないので。』

猟友会の一人が慣れたように冷静に切り返す。
社長とは長い付き合いなのだろうか。

『人質、いや妖精質が無いとキツいと思いますよ…?

フフフ…まぁ頑張ってください。数は居ますがリーダーがいなければ大したことありませんから。』

そう言うと社長は、オカシラが入ったケースと子ずんが入ったアルミ製の網ケースの残りを車に積みこんだ。

そして、粘着シートを付けた服を脱いで地面に広げ、引っ付いた残りの親ずん数十匹を、一匹残らず無感情に踏み潰していった。

《ひぎゃ!》ブチッ《へぶっ!》ブシュッ!《おちびちゃ…まもれなくてごめんなのdプチッ

空き缶でも踏み潰すように。

当たり前に。

靴を緑色に染めたまま、社長は運転席に乗りこんだ。

『私はオカシラを潰しに別な場所に向かいます。ここの残りは皆さんでも駆除できるでしょう。

といっても今日は一旦会社に戻りますけどね。もうじき日が暮れますし。猟友会の皆さんも一度撤収してはいかがですかな?』

『…そうさせていただきますよ。』

車が発進し始める。

夕焼けは社長の顔を、逆光で真っ暗闇に隠した。

まるで、社長を責めるように。

『ワトソン君、本日はご苦労様。』

事務所に到着し、テーブルの上に僕を置く。

先程の惨劇で、僕はすっかり押し黙ってしまっていた。

『さて、どうしましょうか…コイツら。』

《いたい…のだ…》《ここからだすのだ…》

目の前には網ケースにギチギチに詰められた子ずんと、プラケースに入れられたオカシラ個体がいる。

まさか、まだ殺し足りないのだろうか…。

『ワトソン君…夕飯だ。

今日は豪華だよ。君の初仕事のお祝いさ。

今まで君に食べさせてきた健康・回復料理とは格の違う食べ物を作ってあげよう。

ずんだ餅という、素晴らしい食べ物をね。』

《ずんだ、もち…》

『ずんだもち』、その言葉は間違いなく僕の知らない言葉だった。

しかし何故か、イメージは頭に浮かんで来た。おまけに味すらも分かった。

…いや待て、そもそも何故それが食べ物だと思ったんだ?

《なんで…しっているのだ…ぼくは…ずんだもちなんて食べたこともみたことも無いというのに…ホンノウ?に刻み込まれているのだ…?

ちょっと待つ…のだ。

ずんだ…もち…ずんだ…もん…》

僕は、そのまま推理した。まさか、ずんだもちとは…!

《『…まさか、その子ずんとオカシラを、そのずんだ餅にするのかい…?

まだ…殺し足りない…のかい…!?

もう、沢山だよ…もう嫌だよ…やめて欲しい…

教えて…僕が何をしたら…止めてくれる…?』》

『!!!!』
社長が驚いたような顔をする。
何かおかしなことでもあったのだろうか。

『…何ということだ…既に少しずつ…語尾の「のだ」が抜けている…

それにこの語彙力と論理的思考力の急成長…ケースの中で見よう見真似で覚えた言葉を、即興で使いこなした…とでも言うのか…!

挙げ句に…本能から出てきた、ずんだもちという未知の言葉を組み合わせて、推理と交渉文まで添えてた上で「文章」を構成しやがった…

発音だって、人間顔負けの相当な滑らかさだったぞ…』

ドシン!

社長は狼狽して、尻餅をついた。

『年も…子ずんと大差ない…いや、それ以下かもしれないのに…

間違いない…予想通り…いや、予想以上だ…!

仮説は良い意味で裏切られた…!

「人型」になれる…?

そんなレベルじゃない。

…ただでさえレアな「人型」の中でも、奇跡の個体…

叡智個体…!

発見確率は誇張抜きで、億に1匹…

そこまで低確率だと、私ごときが会う機会なんて無いと思われがちだが、繁殖力の高いずんだもんなら試行回数が稼げる。ならば…一応、あり得ない話ではない…と言えるのだろうか…

実物なんて…それこそ、東北にある大学の研究機関で観察されている1匹しか、見たことが無いぞ…!!

その1匹は、人間社会に適応できるレベルの知能を持っているどころか、一部を越えかねない知能を持っていた…。

その年のセンター試験の数学を2時間で80点…だったか。

今はそこの教授のアシスタントをしながら社会勉強をしている…とか。

人間で例えるなら、ラマヌジャン、ニュートン、アインシュタインクラスの超天才…!

それが…今、手元にいる…

ははは…何てこった…世界中の研究者が…喉から…何本も手が出るほど…欲しがる存在だぞ…

大企業を一括払いであっさり買収できるほどの…懸賞金がかかっているんだぞ…

手足の…代わりに、、、ず、、。、。頭脳を。。。。手に入れたとでも…?

は…ははは……』

歯をガチガチ鳴らして震える。

社長は狼狽していた。僕のどこがそんなにおかしかったのだろうか。

[…??何かおかしいことでも??]

『は…は…もう普通に話せるじゃん…ナニコレ…夢でも見てるの…?

一回外に連れ出しただけで…コレ?

…成長スピードだけなら…私のそれをゴミカスと言って良いレベルじゃん…』

社長は立ち上り深呼吸をした。

次の瞬間には、元の社長に戻っていた。

『ワトソン君、君が賢いことはよーく分かった。

でも残念。君の願いは叶えられない。

その叡智の頭脳に、新しく書き足したまえ。

この世界は、残酷なんだと。』

そういうと社長は、物置きから透明な容器を引っ張り出してきた。

[それは…何ですか…?]

『これの元はこれ、スマホの画面が見えるかな?

かき氷機と言ってね、ハンドルを回すと…ここに入れた氷を刃が細かく切ることで……そうだな……そう、雪を降らせることができるんだ。

あのふわふわ、食べてみたいと思ったことはないかい?

そんな夢を叶える機械なのさ。

でもね、今回削るのは氷じゃない。そして、作るのは雪じゃない。』

ニタァ

『ずんだ餡…ずんだもちの上に乗ってるあまーいペーストだよ…』

[ペースト…?]

『ねばねばした、粘性のある練りものだよ。

…練りものとは何なのかって?

…今から見せるさ…はははははッ…!』

【血桜、喰】

『瞬きせずに、よーく見てなさい…!

その頭に食事とはそもそも何なのかを、叩き込むのです…!』

社長はケースからオカシラをつまみ上げて、かき氷機にセットした。

それにしても、このかき氷機はどうして刃以外が全て透明なのだろうか…?

《はなせ!はなちゅのだ!ぼくはおまえよりつよいのだ!くちょにんげんをぶっころちてナワバリをひろげるのだ!》

『君は大人なのに、ろれつが回ってないなぁ…凄く生意気で可愛いなぁ…フフフフフ』

《だまれ!くちょにんげん!》

クルッがぶっ!

オカシラが体を反らして社長に噛みついた。

しかし社長は微動だにせず、それどころか…

…どうしてそんな穏やかな笑顔を…

『あぁ、可愛い…もう最高…壁に釘で打ち付けて飾っておきたい…

いえ…ダメですね。ワトソン君の食事なのですから。』

社長はかき氷機に、オカシラをセットして蓋を閉めた。

オカシラの喚き声が籠って聞こえてくる。

容器が透明なので、中の様子は僕の目からも確認できた。

…確認できる……

確認できる…?

[え…まさか…?]

社長はそのまま、レバーを回し始めた。

[ま…待って…もう…分かった…解った…理解ったから…!せめて、気絶させてから…!]

ゴリッ!ゴリッ!ゴリッ!

《―あ゛

みぎゃ

ぁーーーー

ーーーー

ぁぁぁあぁぁあぁぁあああああああああああああああああああ!!!》

グシャッ!ボギボギボギッ!

オカシラ個体の脚は刃に巻き込まれながら、削られている。

『…うわ…ぁ…』
社長は幸せそうに頬を歪ませた。

刃がなまくらのため、骨折しながら徐々に肉を削られている…

容器が透明なのは、削れる様子を見るためだろう…何て悪趣味な道具なんだろうか。

僕は思わず目を閉じた。

しかし目を閉じても、肉の削れる音と悲鳴が聞こえてしまう。

…耳と目を同時に塞ごうにも、四肢がないからそれが叶わない。

僕はこの惨劇から、絶対に逃れられなかった…。

ブシュシュシュシュ!

《ほぎほぎほぎほぎぃぃぼぎぃ!》

骨を削る音が止み、肉を削る音が大きくなった。もう下半身は削りきったようで、刃は身体に到達してた。

ハンドルを回転させる手は、弄ぶようにゆっくりだった。

『…そろそろ良いかな?』

社長は左手でハンドルを回転させながら、右手で子ずんを鷲掴みにして、

《やーやー!はなちて!》

子ずんを受け皿に置いた。

そしてなんの躊躇もなく、子ずんの体の上に文鎮を投げ落とした。

ズドッ!ガチャン!

《ブフッ!ゲホッ!》

子ずんの口から血が噴き出す。
内臓が潰れたようだ。

そして、オカシラ「だったもの」が体の上に雪のように降りかかった。

ブシュシュシュシュ…

《あああぁぁあああぁぁ!うおあぁぁあぁぁあ、A!…………………………………………………………………………………》

オカシラ個体の胸より下が全て削れてなくなった頃、刃が心臓に到達したのか、オカシラはそれ以上口を開かなかった。

…子ずんの上には大量の「ずんだ餡」が乗っかっていた。

次の瞬間、社長は文鎮の上に右手を降り下ろした。

ズンッ!

《ゴフッ!》

子ずんが血を吐いて白目を向く。

ズシン!ズンッ!ズンッ!ズシン!

社長は何度も右手を降り下ろした。

その辺りだっただろうか。あまりの景色に脳がショートした僕は気絶した。

何分経っただろうか。

社長に指で体を揺すられ、起こされた。

[う…ん?]

『おまたせ。これが、ずんだもち…だよ。さっきもう1つ同じずんだ餡でずんだもちを作って検査薬を垂らしてみたけど、毒とかは大丈夫だったよ。

普通に美味しかった。

オカシラクラスになると毒キノコ食べても、普通に生きてるから、体内に毒が残ってる個体もいるんだよねー。

あと生物濃縮の毒もたまーにあるね。年を重ねた個体とか。

そういうのには気を付けなきゃ…ね?

君はこれから沢山の同胞を食うだろうから、覚えておいてね。

あっ、もしかして分からない単語とかあった?』

目が冴えた僕の前には、無邪気に振る舞う社長と「ずんだもち」があった。

食事とは…こういうことなのか…誰かの命の上に…僕の命があるのか…

[今まで食べてきたものも…何かの命…?]

『そうなるね。
食わせてきた健康料理の中にも、ずんだもんは入ってたよ。

…食べたくないのかい?君の大好物の筈だ。』

[何も…しなくて…良いのかい…?このまま食べて…良いのかい…?]

『…ずんだもんにとって、ずんだもちは本能的な好物のはず…それを前に「待つ」ことができるのかい。

…凄いね、本当に。普通なら頭と自我を空っぽにして漫然と食らいつくのに。

いいよ、君には教えてあげる。教える価値がある。

そういうときは、頂きますって心に唱えて食事を始めるんだ。

この食べ物が、どうやってこの食べ物になったのか…そして食べなきゃ自分が死ぬから食べる…それを理解していますよ、とお気持ちを表明するのさ。

食事が終わったら御馳走様って言うんだ。ちゃんと無駄なく頂きました、ってね。』

[いた…だき…ます…?]

社長は、ケースから子ずんを1匹掴みとった。

《やーやー!!やーやー!!》

『そう。…いただきます。』

ブチュッ…モグ…

社長は軽く水洗いされた子ずんを、生で頭から食べた。
いつもの狂気は嘘のように引っ込み、純粋に食事をしていた。

…僕は社長から初めて「挨拶」を教わった。

パクっ

[…]

凄く美味しかった。
足があったら…腕があったら…
きっと全身で喜びを表現していただろう。

この時の味を僕は一生忘れない。

今も、忘れてなどいない。

[御馳走様…でした…む…]

とても長い一日だった。

同胞の命を無残に奪われ、不覚にもドス黒い感情を抱いて、挙げ句には僕自身も同胞を口にした。

今日一日だけで、どれ程の禁忌を犯しただろう。
どれ程、えげつない刺激を受けただろう。

正直、頭がおかしくなりそうだった。いや、おかしくなっていた。

『ワトソン君、おめでとう。君はこんなに若いのに、「命」を深く理解した。今日の研修はこれで本当に終了だ。お疲れ様。ゆっくり休むと良い。
ミント・笹・水を置いておくからね。口を綺麗にするならミントと笹。水は…分かるね。じゃ、私はこれで失礼するよ。また明日。』

[口を綺麗にする…綺麗にした方が良いの…?]

『あ…そうか。歯磨きの文化なんて無いのか。君が叡智個体であることで、すっかり麻痺していたが、知らないものは知らないよねぇ。

口が不潔だと、生き物は早死するんだ。詳しくは、君がもっと知識をつけてから教えるけど、口の中の清潔って結構大事なんだよね。ちゃんとキレイにすることをオススメするよ。』

[不潔…きたない…?清潔は…きれい…。あ、そういうことですか。そんなに良くないことなんですね。分かりました。]

『単語の意味が分からなくても何とかなってしまうんだねぇ…。その辺の子ずんと大差無い年齢なのにね…。ホント、君は私をワクワクさせるのが得意だ…!

…コホン。では、お休み。』

社長はそのまま事務所の地下室に降りていった。
それを見届けた僕は、口をキレイにすべく笹とミントを口に含んで噛んだ。
[…辛!?スースーするのだ!]

辛さに驚いて、思わず語尾に[のだ]がついてしまった。
…いつの間にか[のだ]が語尾から消えていることに、僕は今更気がついた。

…今更?
こうして頭の中で何かを考えている間、語尾に[のだ]は付いていなかったというのに?

そもそも、

僕は一体、何者なんだろうか。

何故、「同じずんだもん達に酷い目に合わされた事実」は思い出せるのに、何をされたのかを思い出せないんだろうか。

そんなことを考えていると、今日、一日の疲れがドッと体、に、のし掛、かってきた。
直後、強、烈な眠気に襲わ、れて、そ、のまま眠りに落。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

―――――――――――――――――――――――――――――
『…さて、可愛い助手君が寝てくれたから、ここからは大人の時間だ。』

カチャ

『ご機嫌よう、元気してるかな?

死ぬ相手に聞くことじゃないかぁ。ククク…。
さて、今日も今日とて「会員専用生配信」をするとしますか…。』

仕事を終え、1匹の狂人に戻った彼は、慣れた手つきでカメラをセットする。
これから行う虐待に心を躍らせながら…

≪いぢゃいのだぁ≫≪もうゆるちて…≫≪くちょにんげんなんてよんでごめんなさいなのだ≫≪もうむりちゃ、ちぎれるのだ…≫≪ごろじでやるのだ!はなせちくちょー!≫

部屋の中には、ずんぽを有刺鉄線でギチギチに巻かれ、天井に吊るされた妖精が何匹もいた。
逆さずんぽテルテル坊主…彼が考案した「虐待」だ。

ずんぽに紐をくくりつけられ、天井に逆さに吊されてがに股になる様は、無様という他無い。

しかし、その紐は有刺鉄線。つまり、巻かれただけでずんぽはズタズタになる。
挙げ句に逆さ吊りされているため、自重が全てずんぽにかかることになる。
そして当然、自重は有刺鉄線にもかかり、トゲは更に深々と突き刺さる。

こうなるともう、痛みを逃がすためにもがくことしかできないが、そんなことをしてもトゲが余計に食い込むだけである。

つまり、これをやられた妖精は、自分のずんぽが少しずつ千切れるのを無様な格好で待つしかなくなるのだ。

見てくれこそ滑稽で無様だが、もはや虐待を通り越して拷問である。

「会員の皆様、2週間もお待たせいたしました。さくらもんです。」

画面にコメントが映し出される。
『同時接続数2000人…私が言うのも何だが、君たちストレス抱えすぎでは…?まあいいか、フフフ。今日も楽しもう、諸君。

何をするかは伝えてあると思うけど、今日はコイツらを天井から引きちぎって殺すよ。ちなみにコイツらが無様に吊されてた様子は、録画してあるから…じっくり見たい人はいつものURLから見てね。…是非とも見る事をオススメするよ。2匹分、自重でちぎれる瞬間が撮れたのさ。』

――――――――――――――――――――
みみ:うはwwwwきたーーーーーーー!
魔神イッヌ:さくら様、待ってました!
ずん虐大好き:後ろの妖精達…まさかホントにテルテル坊主しちゃうとか…やばすぎwww
復讐の枝豆農家:良いじゃん。ワラの紐で同じことやってるけど、有刺鉄線とは容赦ないね。次はワラにカエンタケでも染みこませてみようかな。
憂さ晴らしサイコー:@復讐の枝豆農家 やばい奴いて草。俺も人のこと言えないけどなwwwwwww
――――――――――――――――――――

『じゃ、早速一匹殺しちゃうね。確かコイツは…えっと…ラベルを生肌に直接ホッチキス止めしてたはずだから、この辺に…あった、東北の野菜農家組合の依頼で捕まえたオカシラ個体だ。畑が食い荒らされてて大変だったね。新聞に載ってたけど、被害総額知ってる??10億円。やばすぎだよね、あははははww

それで枝豆農家の方、ここの会員になったんだよね。……闇落ち農家ww不謹慎すぎるよそれ。

え、本当にそういう名前で登録してるの?あ、居た。この人か!
本当にいるじゃん…その節はどうも、ご愁傷様でした。

…じゃあ、尚更派手に殺してあげないとね…』

ガシッ

≪おい!なにをちゅるのだ!いたいのだ!いまならまだゆ『うるさいな』

グイッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

プチプチッ

≪オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!≫

『カカシの元顧客であると同時に、お前さんの被害者が、わざわざこんな辺鄙なところに来てくださっているんだからさ』

スッ

『ちょっと黙ろう?』

「「「「「「「「ドンズパァン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」

部屋に爆発音が響き渡り、右手が炸裂した。
吊された妖精に、右ストレートを食らわせたのだ。

妖精は巻き付いた有刺鉄線を更に股間に食い込ませながら、振り子の要領で天井に激突した。
そして、惰性で少しずつ勢いを失って、元の定位置に戻った。

たった一発のパンチで、顔は原型を留めていなかった。

《…》

もう、妖精は喋らなくなった。

ぼろ雑巾と化した妖精にトドメを刺すべく、体を下に引っ張る。

プチプチ…

《ァ…ォ…》

ブチッ…ブシャツ

『ああ…素晴らしい…可愛い可愛いずんだもん…もっと虐待させておくれ…』

ついに、ずんぽが千切れた。
彼はようやく死ぬことを許された。

――――――――――――――――――――
ずん虐大好き:えっぐwwスッキリしたぁ…
闇落ち農家:あんた最高だよ…。
復讐の枝豆農家:ちぎれないようにギリギリを攻めるの楽しいよね。でも柔らかくて、ワラ紐吊しですら、ずんぽがちぎれるの早いんだよな…。それを有刺鉄線でやってんだから、意味がわからんよ。
ずんだあん:@復讐の枝豆農家 同業者かいな。あんたも妖精に恨みを?
ずんずんちゃ:うぇ!?!?
ずんだもん殺し隊:!?
ずんどこ:空手有段者か…?
さくら様万歳:うお!?はっや!?笑うしかないwwww
――――――――――――――――――――

プチ…プチ…プ…チ…プチ…

《もう…ちぎって…ゆっくりちぎらないれ…お…オォオ…》

ブチッ、ブシャッ!

《あっ…やっとちねるのだ…あは……………………………………》

『これで最後…ずんぽ…千切れちゃったねぇ…🍷』

逆さに吊られた最後の命が、遂に消えた。

部屋は、静かになった。

コメント欄には、賞賛の嵐が吹き荒れていた。

ずんだもんにとってみれば、千切られた方が、もはや幸せだったのかもしれない。
有刺鉄線を巻かれたずんぽに全体重がかかるなど、正気を保てる方がおかしいのだから。

『さて…凄いね、コメント流れるの速すぎでしょ、投げ銭もこんなに…流石に読めないって…

でも、見てくれてありがとうね。

2週間待たせた分、今日はこの後にも虐待ショーを用意しているんだ。準備に時間かかるから、のんびりやってくよ。今日は本業で疲れてるし、カンベンね。』

―――
うめもん:豪華2本立て…!
闇落ち農家:ほう…楽しみです!
さくら社長万歳:うっはww
―――

さくらもんは、プラケース、木材、釘、電極、謎の機器…そして親子ずんの入ったケースを持ってきた。

《だせ!くちょにんげん!》《しね!おい!》《はやくここからだちて!》《はらへったのだ!》

『ふふふ…可愛いですねぇ…これからもっと可愛くしてあげますよ…!』

ままずんを鷲掴みにし、持ってきたプラケースに木材を入れ、その上にままずんを置いた。

次の瞬間、

カンッ!カンッ!トンッ!トンッ!

《いゃーーーーーあ!いちゃい!やめるのだ!》

なんの躊躇もなく、四肢を釘で留めた。

モゾ…モゾ…
《ゆる…ちて…》

痛みに悶えて体を動かすも、四肢を打ち付けられているため、お尻しか動かない。

《いちゃい…どうして!こんなこと!》

『さて、ここからが本番。

まず塩水を用意します…これをこのケースに入れます…』

ドボボボボボボ

《あがががががががが!!》

塩水が、傷口に入り込む。

《ままずん!だめー!!》
《もうゆるちて!ままずんが!》

塩水は、ままずんの口を下から半分覆う程の量、ケースに入れられた。

首を上にもたげれば、ギリギリ息継ぎができる状態である。しかし…

《いだい!じみる!うぎゴボボッ!》

釘で空いた四肢の孔に、塩水が入り込む。

想像を絶する激痛。

しかしそれをこらえ、無理にでも首を上げ、息継ぎしなければ溺死は免れない。

だがそんなに体を動かせば、傷口が広がってしまう。
広がったところには、当然塩水が入り込む。

塩水と釘。たったこれだけで、地獄が完成した。

ままずんが死に目に逢っているのを尻目に、さくらもんはワインを片手にくつろぎ始める。

《おかぁちゃをはなして!》
《もりにかえして!》《おぎゃーおぎゃー!はうぅ!はうぅ!》

子ずんの必死の叫びすら、リラクゼーション用のBGMにしてしまう。

ワイン片手にくつろぐ様には、凍えるような狂気が宿っていた。

ふと、コメント欄に目を写す。

『…コメント欄流れるの速すぎ。スパチャ凄…

皆さん満足してるようで何よりだ。やったかいがあるよ。

…でもね、』

ニャリ

『塩水は、ここからが本番なのだよ…!』

ゴボボッ

《ゴフッ…いだ…うげ…》

ままずんが、水面から顔を出す。
かなり塩水を飲んでいた。

加えて、塩水はままずんの体と木材にたっぷり染み込んでいた。

これにより水かさが減り、水面からしっかり顔を出すことが可能になった。

『助かりたきゃその塩水、飲むよね。良かった。狙い通りだ。これで「下準備」ができた。』

次にさくらもんは、電極を取り出した。

そして満を持して、ケースからぱぱずんを取り出す。

《むー!むー!》

五月蝿かったのか、唇同士が焼かれてくっつけられていた。

そして徐に、ぱぱずんのずんぽをままずんに差し込んだ。

《!?ぱぱずん!?ヘコヘコなのだ!?》

更に、

グサッ!

《むーーーーーー!!!!》

一本目の電極をぱぱずんの腰…脊椎に差し込んだ。

『ぱぱずんは特に拘束しない。でも脊椎が完全にやられたから、これで逃げられなくなった。

そして二本目はここだね。』

グサッ

《あぁぁあぁぁぁぁ↑↑↑!!》

ままずんの目に、躊躇なく刺した。

『…あとは電極とこの機械をセットすれば…!

よし、画面の前の皆様、お待たせしました。
これからお見せする虐待は…名付けて、ずんだもん電池!

結構エグいので、見る方は自己責任でよろしくね…

じゃ、やるよ…皆殺しだ。』

ピッ

バチバチバチバチバチバチ!

謎の機械は…ずんだもん電池用にわざわざ改造された、特製スタンガンだった。

《あばばばばばばばば》
《むごぉーーーーー!》

ぱぱずんとままずんが、感電しながら電気をスタンガンに送る。

ヘコヘコヘコヘコ…

筋肉が強制的に動かされ、ぱぱずんの腰が勝手にヘコヘコし始めた。

《あっ…あっ…うご…》

『ここでひとつ豆知識。

ずんだもんの体がプニプニとして柔らかい理由が分かるかい?

…フフフ…分からない?

おっけー。んじゃ、説明するよ。

彼らは枝豆、ずんだもちの妖精と言われるだけあって…潰すとほんのり甘い、ずんだ餅に酷似した物体になるのは知ってるよね?

成分解析にかけたところ、実に約90%弱がずんだ餅の成分と一致したんだ。

…いやずんだ餅どうこうは関係ないよ。

大事なのは含水率。

コイツらが柔らかいのは…並の小動物よりも、含水率が高いからなのさ。

裏を返せば生きた電解液、バッテリーとも捉えられる訳なのよ。

だから濃度高めの塩水を身体中に含ませると…この通り発電を始める訳だね。

感電のオマケ付きでね…🍷』

バチバチバチバチバチバチ
ヘコヘコヘコヘコヘコヘコヘコヘコ

《む゛ーーーーー!!!!》

『感電しながらヘコヘコ…これだけでも素晴らしいのですが、折角スタンガンを使っているのですから…何か感電させてみましょうか。』

――――
さくら社長万歳:あっまさか…
さくらさく:何てことを…!
闇落ち農家:ワクワクする…!
――――

コメント欄が何かを察する。

次の瞬間、

ドバシャッ!

子ずんの入ったケースにも塩水を投入し…

バリバリバリバリバリバリバリバリッ!

《おかぁぢゃぁぁあぁぁあぁぁあぁぁ↑↑!!》
《おぎゃーーーーー!》

…塩水とスタンガンは、子ずんに雷を落とした。

バリバリバリバリ
ヘコヘコヘコヘコ…

《あぁぁあぁぁあぁぁ!おちびぢゃあぁぁあ!》

ぱぱずんが金切声を上げる。

『…回路はずんぽと電極で繋がってるから、ヘコヘコを止めれば電気は止まるけど…』

ニタァ

『脊椎やられて、電気流されて、止まるわけないよねぇ…!!

ヘコヘコで気持ちよくなりながら、自分の子ずんをじっっっっくり殺しましょう!』

バリバリバリバリバリバリバリバリ
《お゛どう゛ぢゃあ!ヘコヘコやべでぇ!!!》
バリバリバリバリバリバリバリバリ
《おぎゃーおぎゃー!…お…ぎゃ…》

シュー…

焦げた匂いが鼻をつく。
子ずんが1匹、完全に焦げきってしまった。

バリバリバリバリバリバリバリバリ

《あぁぁあ!ヘコヘコとまっちぇえぇえ!》

それからものの数秒後、ぱぱずんの必死の懇願も虚しく、子ずん達は全身から血を吹き出しながら丸焦げになって死んだ。

バリバリバリバリ
プシュー…

雷が、止んだ。

《あはは…ヘコヘコ…きもちいい…ノダ…ぁ…………………》
《ぱぱず…ん………………………》

親ずんは、生命エネルギーを全て電気に変換しきり、完全に干からびた。

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